マンション麻雀

長編小説 / 桂木 智樹

マンション麻雀

「マンション麻雀で代打ちやってみない?」
二十三歳の誕生日を前に、水山さんからの電話一本で夜は変わった。極道が仕切るマンション麻雀——負けたら全額持ち、勝ちの20%が報酬。怖いものなんて何も無かった、ただ麻雀が好きで強くなりたかっただけの、若い頃の話。

全4章 構成
長編小説 ジャンル
桂木 智樹 著者
マンション麻雀 Kindle表紙

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第一章 マンション麻雀の誘い

二十三歳になる誕生日の前。水山さんから電話があった。

――マンション麻雀で代打ちやってみない?

季節は秋から冬へ移り変わる最中。僕が昔からお世話になっている雀荘「iPop」で、メンバーをしている時だった。

人の金で高レートを味わえる。そんな好奇心から、引き受ける事にして条件を聞いた。怖いものなんて何も無かった時のお話。

水山さんからの電話

僕の勤務時間は十七時から、日が昇り、卓割れまで。大体帰るのは朝の通勤ラッシュの時間だ。仕事が終わって店を出ると世界は眩しい。太陽が苦手な吸血鬼の気持ちも今なら理解できる。松屋で朝飯(?)を食べてから帰るのが日課。

今月は麻雀の調子が良い。月も後半だが麻雀は純黒を保ち、その日も貯金を増やした。勝ちに酔いしれながら、いつものキムカル丼を食べていると、水山さんから電話が入る。

――もしもし。どんな感じですか?

非常に低いトーンだが、これはいつもの挨拶。

――そんな感じです。

と、返すと。

――わかりました。

ここまでで一セットだ。

久しぶりの水山さんからの電話。今何をしているのかを聞かれ、「iPop」でメンバーをやっていると答える。何やっているのかを聞くと、今は裏カジノでディーラーをやっていると言われる。

――お久しぶりですね、どうしました?

電話の主題を聞くと、冒頭の質問をされた。

――マンション麻雀で代打ちやってみない?

事情はこうだ。

そこのマンション麻雀は、いわゆるケツ持ちと呼ばれる極道の三次団体が運営している。今水山さんが働いている裏カジノの店長が、営業として人数が埋まらない時、そこに行かなければいけない。麻雀に関してはフリーも打った事ない素人なので、負けが込んでいるらしい。ただ席を一つ埋めればいいだけなので、誰が打ってもいい。そこで代打ちとして僕に声がかかった。

代打ちの条件は、負けたら全額持ってもらい、勝ちの20%が報酬。負けても交通費は二千円出る。依頼人で裏カジノの店長、川嶋さんの負け額は百万円を超えそうな所。勝たなくても負けが少なくなればいい。藁にもすがる思いだったのだろう。

レートは三百円の3-6の東風戦。赤五が二枚ずつ、計六枚で面前祝儀千円。マンション麻雀の割にあまり高くないと思うかもしれないが、ここに3-6のビンタが加わる。25000点を基準として、もらいと払いの金額が決まる。上回っていた場合、自分より着順が上の人に三千円払い、下回っていた場合は六千円払う。逆もまた然り。三人が25000点を下回るマルエーのトップをとると、六千円オール、一万八千円入ってくる。これが意外とでかい。しかしこの時はやった事の無い、ビンタの重要性には気付いていなかった。

――行きます

返事は早かった。次の場は週末の日曜日、十九時開帳らしい。電話を受けてからは、その日に向けて自分を高めていた。

※純黒

ゲーム代(場代)込みで勝っている事

雀荘「iPop」

僕の事を少し話しておこう。

雀荘「iPop」に初めて来たのは十七歳の時。震えながらフリーに挑戦するも惨敗。高校生だったけど当時は年齢をごまかし、「強くなりたい」の一心で働き始めた。大学に入ってからはうまく両立出来ず、大学を辞め、麻雀一本で働いてきた。一度辞めた事もあったが、この店と出会って五年経った今は、店長を勤めている。

水山さんとの出会いはもちろん雀荘。出会った当時で三十代後半だと言っていたが、いったい何歳なのかは知らない。ただ麻雀はメチャクチャ強い。

何年か前に数人で連んでいた時は、色々な痺れる麻雀を教えてもらった。これは話すと長くなるので割愛するが、それも解散。その後は低レートの雀荘で麻雀をしてからラーメンを食べに行く。そんな感じでたまに遊ぶ程度だった。

水山さんと会うのも二年ぶりくらいか。

待ち合わせ

あっさりと当日を迎えた。ちょっと早めの十八時に水山さんと待ち合わせ。場所は日本有数の繁華街だ。待ち合わせ場所の喫煙所で一服していると、スーツ姿の水山さんが現れた。バッチリ似合ってるんだけど、とてもサラリーマンには見えない。

「お久しぶりです」

マンション麻雀は初めてではないので、その時はあまり緊張していなかった。むしろどんな場所か、どんな相手かと、好奇心でいっぱいだった。

そんな事を聞く隙も無いほど、相変わらず水山さんは早足だった。必死で着いて行くこと十分。人混みを掻き分け、人が少なくなってきた場所にオートロックの高級マンションがあった。見上げると、一室だけベランダに監視カメラがあり、路上を向いていたので、目的の場所が何階にあるのかはすぐに分かった。

水山さんが部屋番号を押すと、無言のまま応答中になる。

「水山です」

自動ドアが開いた。エレベーターに乗り、目的の階に着くと部屋の前に風体の悪い男が立っていた。

「いらっしゃいませ、どうぞ」

マンション麻雀が初めてではないとはいえ、こんなゴリゴリの極道がいる場は経験が無い。

玄関は普通の住居だったが、ドアを開けて部屋に入ると雰囲気が一変した。奥からでっかいテレビ。真ん中に黒の全自動卓。それを囲むように、L字のでかいソファがある。キッチンは対面式になっていて、本来であれば家族と顔を合わせながら料理が出来るであろう充実したスペースがあり、そこに強面のスキンヘッドが一人。壁には「任侠」と書いてある額縁が飾ってある。漫画みたいだ。少し離れたところにソファがまた一つ。雀荘で言えば待ち席みたいな所だろうか。一カートン分の吸い殻が入りそうな大きいガラスの灰皿が置いてある。

どうやらお店(?)の人間は三人。入り口で迎えてくれた男、キッチンで立っている男、そして仮眠所みたいな部屋から、眠そうな顔で出てきた男。

入り口で迎えてくれた男が、その三人の中で一番偉いらしい。

「ルール説明をさせて頂きます、松田です。よろしくお願いします」

松田さんがルール説明をしてくれた。

事前にある程度聞いてはいたが、聞いてなかったルールといえば、リーチ後オールマイティの※白ポッチが一枚、オープンリーチ有り、四回戦ごとの場変えだった。

初めてなのでしっかり聞いた。普段は仕事で自分がしているルール説明を、暖房が効いているのに長袖長ズボンの強面な男にされるのは面白かった。

ルール説明が終わったのが十八時半頃。まだ開帳まで三十分程あるが、水山さんは仕事があるからと言って立ち去った。「頑張れよ」と、一言残して。

強面の男三人に囲まれたが、こちらの事情は分かっているので、みんな対応は優しかった。

「あいつすげー負けてんだ、取り返してやってよ」

スキンヘッドが試すような顔をして、僕にこう言う。あいつとは依頼主の川嶋さんの事か。水山さんは僕の事をどう紹介したのか気になってきた。

「精一杯頑張ります」作った笑顔で応える。

程なくして面子が集まり始めた。会話の中から聞こえた対局者の名前は、社長、江口さん、ぴょん。あだ名か本名かもわからない。何故なら自分も偽名だから。本名を名乗らない事は、水山さんに一つだけ約束してもらった。

身分証や、本名の分かる物は全て家に置いてきたし、現金は一万円だけ入れておいた。iPhoneの指紋認証もオフにした。ここでは「桂木」として自己紹介をして、麻雀を打つ。

揃ったところで場決めが始まる。いざ開帳だ。

※白ポッチ

白の中で一枚、ガラスなどを埋め込んである特殊牌。リーチ後にツモるとオールマイティ扱いになる特殊ルール。

開帳

このマンションで、初めての対局。人の金で打つ麻雀はやはり緊張感が違う。フリーで打つ時もそうだが、師の教えで負ける気で打つ奴は負けるという言葉があり、常に勝つ為にやる事を心掛けていた。相手は三人もいるのだから、負ける気でやって勝てるはずがないという当たり前の理論だ。もちろん今日も負ける気は無い。

打ってみると、ここは先ヅモが有りだった。経験の無い先ヅモ有りは全然慣れない。下家からポンをすると、二人がツモ牌を戻す。でも、先ヅモ=鳴きが無いと思うと少しやりやすい面もあった。

先ヅモに対応しつつ、まずは三人の特徴から探っていた。朝まで打つのだし、また呼ばれれば次回も同じ面子かもしれない。元々はみんなバカラのお客。その中でも麻雀好きな人を集めて卓は組まれていた。

社長はほとんど素人。フリーを打った事もないだろう。社長の容姿は「蛭子能収」に似ている。よく左のポケットからハンカチを出して汗を拭いている。

ぴょんはフリーの経験が有りそうだけど、あまり慣れていなさそう。四十代前半だろうか。茶髪に黒い髪の毛が伸びてきている。自分が言うのもアレだけど、この場にそぐわない気の弱そうな人だった。

江口さんだけは少し麻雀の格が上だった。

東風戦も打ち慣れている。仕掛けの早さやアガった時の点数やチップの申告などを見ると、おそらく新宿あたりのピン東風などで暇を潰しているのだろう。

――みんな美味しいメンツだよ

最初の電話で水山さんに言われていたが、みんなではないじゃないかと心の中で思っていた。やり辛いなと思いながらも観察していると、あっという間に二ラスを喰った。

ここの麻雀はチップ清算。僕は代走なので、始めに十万円分のチップが入ったカゴを渡されてスタート。お客さんの場合、十万円以上の換金からスタートする。百円単位は四捨五入なので、10$チップ、50$チップ、100$チップの三種類を使う。一時間もしないうちに、カゴのチップは半分以上減っていた。4432の着順で最初の一周は終わった。カゴには一万円残っている程度。この時点で雰囲気にのまれていたのかもしれない。

続いて二周目。場替えになり、東南西北を最終回のラスから順に引いていく。一周目は社長がバカヅキだった。

社長がリーチ宣言の時に、「はい、オープン!」と江口さんが煽ると、「え〜」と言いながら社長はオープンリーチに切り替える。オープンさせておいて一発でツモられた事が二回あった。

社長が座っていた南の席に座りたい。東南西北がどこにあるかを覚えて、目で追っていると、幸運にも南が残った。なんだかこの瞬間はすごく安心した。二周目の着順は2121。初トップも取り、おかわりをせずにプラマイゼロくらいまでは戻った。少し気持ちも落ち着いたけど、そこからが苦しい時間だった。

手作りハンバーグ

二周目が終わり、三周目の場決めをして席を移動する。社長はトイレに行った。あのおっさん、この短時間でもう三回目だぞ。

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